硬膜穿刺硬膜外麻酔法(DPE)って何?
DPEは、従来の併用麻酔(CSE)から「最初の薬の注入」をあえて省き、硬膜に「小さな穴」だけを開ける比較的新しい手法です。あえて直接薬を入れないことで、麻酔が効きすぎる副作用を抑えつつ、開けた穴から後でお薬がじわじわと浸透し、スムーズな鎮痛効果が期待できます。「薬を減らして効果を高める」という、母子の安全と快適な無痛分娩を両立させるための、絶妙なバランスを持った麻酔法といえます。
無痛分娩の方法を調べていると、「CSE」や「DPE」といったアルファベットの専門用語が出てきて戸惑うことはありませんか?
「どれも同じ麻酔じゃないの?」と思うかもしれませんが、実は針の進め方やお薬の入れ方には、麻酔科医の深いこだわりと、最新の医学的根拠が詰まっています。今回は、その中でも特に「引き算の美学」とも言える、DPE(硬膜穿刺硬膜外麻酔法)について、どこよりも分かりやすく解説します。
DPEとは、Dural Puncture Epiduralの略です。またまた、とても長い医学英語ですが、できる限りシンプルに説明してみたいと思います。
硬膜外麻酔 + 硬膜に「穴だけ」開ける(お薬は注入しない)
もっと詳しく知りたい方は、以下の説明をご覧ください。
まずは、CSE(脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔)を2つの麻酔にカラフルに分解してみます。医療関係者以外の方は色だけ追って頂ければ十分です。なんだか、2種類の麻酔をするんだなぁという理解で充分です。
CSE=Spinal + Epidural となります。
ここで Spinalは脊髄くも膜下麻酔、Epidural は硬膜外麻酔のことを指します。
この Spinalの中身をさらに2ステップに分けると、以下のようになります。
① 硬膜に針で穴を開ける。
② そこから薬を注入する。
いわゆる、注射のプロセスと同じで、針で皮膚と血管に針を刺して、穴を開けて、薬を注入するイメージです。それを背中の奥で、血管の代わりに、硬膜という脊髄を覆う膜に針を刺しています。どちらも、プツッと薄い膜に針を開け、中にピュッとお薬を注入してます。
では、もう一方のEpidural(硬膜外麻酔)の中身も見てみましょう。
① 針で背中の皮膚から進む。
② 針の中に細いチューブ(カテーテル)を通し、背中の奥に置いてくる。
海の砂浜で山を作って、その端と端にトンネルを開通させるイメージです。背中の奥にある空間(硬膜の手前にある空間)に向けて、外側から針を進めて、トンネルを開通させていきます。僕らは手の感覚だけでそこに到達したかを確認しますので、動かないで頂けると嬉しいです。ターゲットが動くと当然、難易度が上がります。
ここまでをまとめると、以下のようになります。
CSE =Spinal + Epidural = 「針で穴あけ + 薬の注入」 + 「カテーテル設置」
いよいよ本題、DPEについて
DPEは、このCSEから「薬の注入を抜いたもの」です。
DPE = CSEー薬の注入 =針で穴あけ +Epidural
つまり、『硬膜に穴は開けるけれど、そこから直接お薬は入れず、カテーテルだけを置いてくる』のがDPEです。
直感的に分かりやすい動画(海外のInstagram)も参考にしてみてください。
https://www.instagram.com/p/C2b1EH-owXY/
一目でわかるCSE・DPE・硬膜外麻酔の違い
| 特徴 | 硬膜外麻酔(標準) | CSE(併用) | DPE(今回のテーマ) |
|---|---|---|---|
| 効き始めの速さ | ゆっくり | とても速い | スムーズ |
| 副作用(血圧低下等) | 少ない | 出やすい | 少ない |
| 足のしびれ・力の入りにくさ | 多少あり | 出やすい | かなり少ない |
| カテーテルの位置確認 | できない | できる | できる |
一言解説
DPEの最大のメリットは、
CSEのように「急激に血圧が下がって気分が悪くなる」リスクを抑えつつ、カテーテルが正しい位置にあることを穴を開ける際の感覚で確認できるため、確実性が高いのです。
無痛分娩で硬膜穿刺硬膜外麻酔法(DPE)を使用する向いている方
私がDPEという選択肢を提案する場合、特に以下のようなケースを想定しています。
- 副作用が心配な方
急激な血圧変化を避けたい、あるいは過去の麻酔で気分が悪くなった経験がある方。 - お産の感覚を程よく残したい方
「全く感覚がないのは怖い」「いきむ感覚を大切にしたい」という方に、DPEの穏やかな効き方は相性が良いです。 - 安全性をより高めたい方
チューブが確実に「効く場所」に入っていることを、穴を開けるプロセスで確認できるため、やり直しのリスクを減らせます。
「お薬を入れないなんて、ケチなの?」と思われるかもしれませんが、実は『LESS is MORE(少ないほうが豊かなこともある)』という考え方があります。DPEは副作用と効果のバランスが絶妙な麻酔法の一つです。
ただし、施設や医師によって最も慣れている方法が一番安全であることも事実です。それぞれの場所で、ベストな麻酔法が選ばれていることをご理解いただければ幸いです。
関連コラム:脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔(CSE)って何?
最後に:あなたに最適な麻酔を選ぶために
DPEという手法を知ると、「最新のほうがいいのかな?」と感じるかもしれません。しかし、お産において最も大切なのは、その手法を扱う医師がどれだけその技術に習熟しているかです。
道具(麻酔法)を使いこなすのは、あくまで人間。DPE、CSE、あるいはシンプルな硬膜外麻酔……。どの方法であっても、目の前のママにとって最も安全で、最も痛みが取れる方法を私たちは常に選択しています。もし不安なことがあれば、遠慮なくバースプランの相談で聞いてみてくださいね。
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プロフィール
Profile
永井 遼太郎NAGAI RYOTARO
M.D. 麻酔科医
経歴
- 獨協医科大学 卒業
- アメリカ医師国家試験(USMLE)合格
- 帝京大学麻酔科 入局
- Maimonides Medical Centerにて
アメリカ式の麻酔科研修を4年間受ける
資格
- アメリカ麻酔科専門医
獨協医科大学を卒業し、故郷の千葉で初期研修を受ける。
ニューヨーク州ブルックリンにある、Maimonides Medical Centerにてアメリカ式の麻酔科研修を4年間行う。
その際、人生で初めて無痛分娩に触れ、快適に分娩が出来るという素晴らしさを知る。
当時2016年、日本とアメリカでは、無痛分娩率に10倍以上の差があるという事実を知り、衝撃を受け、今の自分に出来ることはないかと思い、2021年より、インスタグラムにて無痛分娩に関する投稿、オンライン講演を開始。
2024年からはさらに活動を本格的にするため、Youtubeチャネル『無痛分娩ビレッジ』をスタート。
